アピストグラマをもっと知りたい。気付いたら嵌っていたドワーフシクリッドの飼育記録を綴ったブログです。

2020年4月1日水曜日

AW EP-IV 見えざる偉大なもの (後編)

AW EP-IV 見えざる偉大なもの (前編)からの続き
AQUA WARS episode4 見えざる偉大なもの

観察の目的

アピストは基本的に強い魚であるが鰓(えら)にトラブルを抱えやすい。
魚類は鰓に張り巡らされている毛細血管から溶存酸素を取り込み、同時に二酸化炭素を水中に排出している。この鰓にトラブルを抱える原因として考えられるのはやはり水質の悪化だろう。
水質を維持するのはバクテリアの役目なので、飼育者はバクテリアの働きを常に観察する必要がある。しかしここで疑問が湧く。バクテリアは見たくても目に見えない、ということだ。

バクテリアを視覚でとらえることは修行を積んだマスターヘンダイであっても残念ながら不可能である。ならばどのようにバクテリアを観察するのか・・・。それはバクテリアを見るのではなく感じるのだ。
水槽毎に異なるバクテリアのコンディションを、計測した数値・アピストの行動の変化・水の色・水面の泡立ち・匂い・藻類の種類と生長度合い等から総合的に判断して推測する。
その推測した結果を過去の推測値と比較して未来のコンディションを予測する。所謂”点と点を結んで線にする”という方法だ。

水槽を立ち上げてしばらくしたら硝酸が発生したので濾過バクテリアが立ち上がったと安心してしまいバクテリアのことを意識しなくなるパタワンが居るが、バクテリアが立ち上がってからも、バクテリアが充分に熟成してからもバクテリアを意識し観察し続けることが重要である。

アピスト自体をよく観察することも重要だが、もしアピスト自体に何か悪い症状が出ている場合はその時点で既に手遅れの場合が多い。そうならないためにもアピストの行動の変化を観察して、その先に存在するバクテリアの状況を把握してほしい。

従って観察の目的とは、現状のバクテリアのコンディションを把握し、未来のコンディションを予測し、バクテリアやアピストに悪影響が及ぶ場合は事前に対処することである。

目的ある換水

図1 生物濾過サイクルを表した略図

換水の目的は様々ある。いずれにせよ換水により水槽の環境が現在よりも良くなるなら是非実施するべきだ。しかし必要のない換水はバクテリアを含む水槽内の生体にとってストレスになりかねない。

◎ 例として、以下のような場合は換水した方が良いケース。
  • しばらく換水してなかったので硝酸を計測したらヤバい数値が出てしまった。
  • 立ち上げ直後の水槽は濾過バクテリアのバランスが悪いため有害物質が水槽内に残りやすい。そのため飼育者が換水によりバクテリアの働きをサポートする。
  • 昨日誤って餌を大量に与えてしまった。バクテリアは立ち上がっているはずだが亜硝酸→硝酸を担っているニトロスピラ属の働きがちょっと不安なので、念のため明日悪影響が出る前に今日1/4換水しておこう。
    大量の餌を与えた2~3日後にアピストが動かずジっとしている姿を見ることは多いはず。これはバクテリアの働きが充分でなかったために水質が悪くなっているのが原因だ。どうして2~3日後にアピストに悪影響が出たのかについては上の図の各バクテリアの倍加時間を分解時間と捉えて見ていただくと分かると思う。
  • バクテリアの状態を含め水槽の様々を観察をしたところ、換水した方が良いと感じた。
    長い間同じ水槽の観察を続けると数値よりもこの感覚の方が信頼できる場合が多い。
  • 水草水槽を立ち上げたが、水草の根がまだ張ってないしバクテリアも全く立ち上がっていないので1~2週間は毎日3/4換水するゾ。
◎ 逆に本当に換水する必要ある?と疑問を感じるケース。
  • 毎週○曜日は換水の日と決めて定期的に換水を実行している場合。
    飼育者各自の生活リズムがあるので実際にはそうなってしまうかもしれない。その場合は実施しない週をつくったり換水水量を一定量ではなく水槽の状態に合わせて調整しても良いと思う。
  • 立ち上げてから1ヶ月程度経過しバクテリアが安定期に向かっている時に大量換水をしてしまう場合。
  • 他の水槽を換水したついでにこっちもという場合、等々。
換水の目的は、現状よりも良い状況にするため、または近い将来発生するであろう悪影響に対し先手を打つために行う行為である。
しかし換水を行うことにより水槽の水質は少なからず変化する。その変化が良い方向に向かうのであれば換水すべきであるが、もしその逆の場合はアピストやバクテリアにストレスを与えてしまうことを理解すべきだ。
換水という作業自体は単純であるが、そのタイミングの判断はアクアリウムという趣味の中では比較的難しい部類に入るのではないか。経験を積んだヘンダイならば換水後にアピストが調子を崩してしまったという経験を何度も味わっていることだろう。

水槽立ち上げ当初は換水頻度は高くなりがちだが、濾過バクテリアの熟成が進むにつれ換水の回数または水量は本来であればだんだんと少なくなるはずだ。もしそうでなければ、濾過バクテリアの存在を全く意識していないか、換水が趣味で換水が大好きということだろう。

水草水槽にも同じことが言える。
水草水槽の多くの場合は、水草の他に流木やソイルなどバクテリアが好む有機物が多いので各種様々なバクテリアが棲んでいるはずだ。当然立ち上げ当初は換水頻度は高くなるが、バクテリアの数が整いバランスが取れてくる頃には水草の調子も上がり硝酸等の吸収が進むようになる。この状態が続くと水草水槽もようやく安定期に入り、それまでのような頻繁な換水作業は不要になる。しかしこのような安定期に入っても頻繁に換水を続けてしまうと、水草が機嫌を損ね、萎縮や縮れなどを伴い生長を止めてしまうことがあるので注意してほしい。
アピストの中には換水が苦手な種が存在する。
知ってる限りあげてみると、sp.クイアリ、sp.D37(キーメンフレック)、sp.D39(アルトヴァウペス I)、エレウテリア、sp.D52、sp.D56。
これらの種の共通部分が分かるだろうか。生息地が源流に近くかつ単一河川であることだ。このような生息地の場合、雨季等で水が増水したとしても水質の変化が少ないはずだ。なので水質の変化に対応する術がDNAに刻み込まれていない、と推測する。生息地が同じような環境で水質の変化に弱い種は他にもきっと居るだろう。
逆に下流に行けばいくほど支流が増えてくるので複数の水質が混ざってくるはず。よって複数の支流が混ざり合う下流に生息しているアピストは長い時間を掛けて水質の変化に対応できるようになったのだろう。
ネグロ川に生息するアピストは”安定した水質で飼育することが重要”と言われることがあるが上記のようなことが関連しているとは考えられないだろうか。
ソイルを使って水草水槽を立ち上げた場合、1~2週間は集中換水するのはよくあることだと思う。それはまだバクテリアが完全に機能していないし、水草がまだ根を張っていない。バクテリアが少ないので魚の排泄物や流木などから発生する物質やアンモニアに対処できない。それとソイルから溶け出す余計な栄養分を吸い出してあげるのがその目的だろう。
しかしこの時にフィルターを回してないだろうか?
折角不要な物を苦労して外に排出しているのにフィルターを回していたら濾材やウールパッドにそれらがくっ付いてしまう。これによって立ち上げ初期の藻類に苦労している可能性がとても高いと思う。
集中換水の期間のフィルターは他の水槽やバケツで回しておき、本水槽では水中モーター等を使いCO2を拡散しておけば問題なし。きっとこれだけで初期のコケまみれ状態は回避できるはずだ。
Apistogramma cf. flabellicauda

濾過面積

濾過面積は生体数や餌の量、それと水量とのバランスをとる必要がある。バクテリアの数は餌の量に比例するからだ。アピストを飼育するのであれば、一般的に30リットルの水量に対してシングルスポンジフィルター1本で充分だ。

もし30リットルに対して生体を30匹ほど飼育する場合は餌の量も多くなるのでバクテリアもそれに見合う数が必要になる。この場合バクテリアの仕事量が増大するので換水頻度も多くなるはずだ。
逆に30リットルに対して生体が2匹の場合は与える餌の量も少なくなるはずなのでバクテリアの数も少なく換水頻度も少ない。この水槽の生体数が急に多くなった場合は注意すべきだろう。
30リットルに対してシングルスポンジフィルター1本、アピスト以外の生体を含めて10匹程度がバランスよく管理し易いだろう。

ただしバクテリアがコロニーを作る場所はフィルターのみとは限らない。水槽内の至る所にコロニーを作ろうとするはずだ。気を付けなければならない場所が底床である。
底床は残り餌やコケが溜まりやすく、このような場所にバクテリアはコロニーを作る。底床が厚い場合も同じだ。
バクテリアが増えることは良いと思われがちだが、フィルター以外の場所にバクテリアが定着してしまった場合には急激なバクテリアの増減に注意する必要がある。何らかの原因でコロニーが無くなってしまった場合にバクテリアのバランスが大きく変化してしまうからだ。例えば換水時、底床のゴミを吸い取った時にバクテリアも一緒に捨ててしまう可能性が高いのだ。

時々換水時に底床のゴミを巻き上げたのが原因でエロモナスになってしまった、と聞くがこれも底床に溜まったゴミが原因だ。しかし勘違いしていると思う部分がある。エロモナス菌は常駐菌であることは知られている。常駐菌ということは水槽の至る所に居るし、当然魚の体表や体内にも存在している。
底床のゴミを巻き上げたことによりそこに静かに潜んでいたエロモナス菌が活性化してアピストにくっ付き病気になったと思うかもしれない。確かにその可能性もあるが、底床を巻き上げバクテリアのコロニーを破壊してしまいバクテリアのバランスが崩れ、その結果アピストの免疫力が落ち数日後に体内に潜んでいたエロモナス菌が暴走した、というのが正しい捉え方だろう。
人間でもストレス等により免疫力が低くなった時にいつもは悪さをしない腸内細菌が暴れ出してお腹が痛くなる、なんてことがあると思うがそれと同様の現象が水槽内で起きたと思われる。

中大型魚をベアタンク水槽で飼育しているのをよく見ると思うが、排泄物を掃除しやすくする目的があると思うが、底床にバクテリアのコロニーを作らせないという目的もあるのではないかと推測する。アピストの場合ベアタンクで飼育すると体色が飛んでしまうのでオススメはしない。

以上のことからアピストを飼育する場合、底床は砂等を極々薄く敷き、底床はいつも綺麗にしておきべきだろう。そしてバクテリアの定着場所をフィルターのみに集中させることでバクテリアのコンディションを把握・管理しやすくなるはずだ。
生まれた稚魚等多くの生体を飼育する場合は餌の量が多くなるので多くの水量とバクテリアが必要になる。こんな時はフィルターに何を選べば良いか迷うところだと思う。
その後も生体の数が増える可能性があるなら個人的には60cm水槽で底面フィルターをオススメする。底面全体が濾材なので急な生体の増減にも対処でき、水槽内に淀んだ場所が出来にくいからだ。硬質のソイルを使えば長期間維持することができる。
欠点は、濾過面積が大きいのでバクテリアの立ち上がりがかなり遅いことだ(完全に安定するまで約1年掛かる)。しかし良いバクテリアが定着しているスポンジをスライスしてスノコの下に潜り込ませておけば立ち上がりのスピードを加速させることができるはずだ。もし今後稚魚が増える予定がある場合は早めに環境を用意しておいた方が良いだろう。
スポンジを細かくカットして優秀なバクテリアを移行する方法は外部フィルターなど他のフィルターにも応用できる。バクテリアを早く効率的に移行する方法として是非マスターしてほしい。

この時代だからこそアナログ

「アクアリウムという趣味は今のデジタル時代とは真逆にある世界。超アナログで人間の優しい心を取り戻すことができる世界だ」
と話すのは、音羽のヘンダイ聖堂を取り仕切るグランド・マスターのマスターシトーである。
その通りだと思う。全てに対して常に正確性とスピードが求められ、昔と比べネットやその他様々なインフラが整いとても便利になる一方で、人間らしい研ぎ澄まされた感覚みたいな物が忘れ去られるのではないかと不安になることもある。数字では決して表すことができない未知の世界がまだまだ沢山あるはずだ。だからこそアクアリウムという超アナログな世界で人間らしい心や癒しの心を楽しみ、そしてパタワンの皆にはヘンダイの真髄を極めていってほしい。

池袋のヘンダイ聖堂は同じくグランド・マスターのマスターソルトが取り仕切っている。
この聖堂には『魔法の水』と呼ばれるアピストの体色があっと言う間に揚がってしまう不思議な水槽が置かれている。しかし一見何の変哲もない普通の水草水槽だ。
この水槽の秘密を探求し、その鍵は水草だと結論付けて水草の種類による変化を試す者も現れた。
しかしその答えはとても単純であった。毎日水槽を観察し、足りないものを与え要らないものを除き長い間維持管理してきただけの水槽なのだ。立ち上げから恐らく3年以上は経過していると思われるその水槽のソイルはそれ自体の栄養分はとっくに無くなってしまっている状態だ。それでも水草と魚とバクテリアの状態を常に観察して最高の状態に保ち続けているのがグランド・マスターたる所以なのだ。

丹精込めて育て上げられたバクテリア群は目で捉える事はできないがその環境に最も適した唯一無二の存在である。言葉を変えれば貴重な財産である。そしてもちろんそれはプライスレスだ。
数字だけに頼ることなく、自らが育てたバクテリアと自らの感性を信じて磨くことがヘンダイへの第一歩なのである。
Apistogramma cf. flabellicauda

絶体絶命

一方その頃、エロモ・スターに向かったルーク・スカイウォーター率いる攻撃中隊は強大なエロモ・スターの抵抗に苦戦を強いられていた。
敵の対空砲火を掻い潜って直径約2mの小さな排熱口にプロトン魚雷を撃ち込む作戦は困難を極め、ルークが持っているプロトン魚雷が残された最後の一発となっていた。
刻々と制限時間が迫るなか絶対に的を外すわけにはいかないルークは"pHメーター"という自動照準装置の校正作業を念入りに行っていた。

とその時だった・・・

「ル・・・-・・ク・・・」

「ルークよ」

ルークの内なる声が聞こえた。それは正しく師匠マスターセノービの声だった。

「ルークよ。バクテリアを使え」

「見えてる物が全てではない。あらゆる物にバクテリアは満ちそして様々な働きをしておる」

「バクテリアを信じるのじゃ!」

その声を聞いたルークは持っていたpHメーターと校正液を静かに横へ置き、目を閉じバクテリアに集中した。そして静かにトリガーを引いたのであった。

エロモ・スター破壊


バクテリアと共にあらんことを!


この記事はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり実在のものとは関係ありません。
そしてこれを書いた人のキャラもフィクションです。
掲載内容については、私の知識や経験を基に書いているため必ずしも正しいとは限りません。


ここまで読んでくれた方はこちらへ。
ブログランキング・にほんブログ村へ



4 件のコメント:

やすべい さんのコメント...

新二帖水族館のやすべいと申します。
アピストを始めてからのずーっとバイブルとして活用させていただいてます。
自分では「ヘンダイ」まではなってないと思いますが、、、(笑)
アピストを始めてから「水」について考えさせられることがたくさん出てその都度
いろんなことを試しながら自分ち流が確立されつつあります。
「マスターヘンダイ」の頂点に君臨されるデスモさんならではの記事
自分で試しながらやってきたことの確認そして自信になりました!

昨日「リミックス」のお兄さんとコロナで魚が来なくなったこと言ってたのが
世の中すべて「コロナの影響」があるのだと、、、また元通りになると
いいなと思いながら今うちにいるの魚たちに遊んでもらいます

ナル さんのコメント...

デスモさん ご無沙汰しています!
新型コロナの影響 特に東京方面が深刻
何時 どうなって行くのか 解らない状態
非常に心配しています!

僕のアピスト飼育は 少し先が見えるように
なって来ましたよ!
ただ 2日前に食べた夕食を 忘れるように(笑)

アピスト飼育術を 書かれてから
早数年! 完成度の高い内容
後にも先にも この内容を書いて発信
する事が出来るのは デスモさん1人

今回の発信伝えたい事は 解りましたよ!?
ファンタジィ〜の世界 (逃)
1人でも多くの人に 伝わるとイイですね!
アピスト飼育における バクテリアの重要性〜〜



デスモ さんのコメント...

> マスターやすべい

コメントありがとうございます。

教えられたとおりに、を通り越し水やバクテリアについて考えて自分流に移行している時点で立派なヘンダイと言えます。いや間違い無くヘンダイです(笑)

私自身もまだまだ自分で考えた事を一つ一つ確認しながらの状態ですのでまだマスターには程遠いと思っています。と言うか、もう挑戦することが無くなってしまったら私のこの趣味が終わってしまうような気がして・・・、なので常に挑戦する事を残しておきたい。そして楽しみたいと思っています。

デスモ さんのコメント...

> マスターナル

立派なヘンダイのナルさんには今回の記事は全く必要なかったはず。
だからフィンタジーの世界をお楽しみいただけたのなら良かったです(笑)

バクテリアもウイルスも見えない存在。だからこそ彼らの偉大さや怖さが分かり辛いですが、探せばそこら中にバクテリアの恩恵があり、彼らのお陰で魚だけではなく我々も暮らせているのが分かるはずです。
だから本当にアピストだけではなく、アクアリウムにおけるバクテリアの重要性は多くの人に知ってもらいたいですねぇ~